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パワハラの原因を考察!組織内コミュニケーション

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従業員の心身の健康は重要な要素です。
その中でも職場のパワーハラスメントは、従業員のメンタルヘルスに大きな影響を与えるだけでなく、
企業価値を損なう恐れがあり、全社員で取り組むべき問題です。
この記事では、上司から部下へのパワハラを防止するための対策についてお伝えします。

《もくじ》
1. パワハラとは/厚生労働省より
2. 組織内コミュニケーション/龍谷大学心理学部より
3. 書籍の紹介


1. パワハラとは

労働施策総合推進法における令和4年度の相談件数は50,840件(対前年度比117.6%増)。
このうち、パワーハラスメントに関する相談は46,149件(対前年度比236.2%増)と、年々急速に増加しています。

パワハラとは?

職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる
① 優越的な関係を背景とした言動であって
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
③ 労働者の就業環境が害されるものであり
④ ①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。

厚生労働省のガイドラインによると、以下の6つの典型的な行為が適切に該当します。

1.身体的な攻撃(暴力行為)
2.精神的な攻撃(脅迫や侮辱)
3.人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
4.過大な要求(遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
5.過不足要求(能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる)
6.個の侵害(私的なことに過度に立ち入る)

   ※明るい職場応援団/厚生労働省より画像ダウンロード+日本ナースオーブ注釈

 

侵害が企業に与える影響

被害者は個人の心身に悪影響を及ぼすだけでなく、企業全体にも大きな悪影響を与えます。

健康の弊害:従業員によって精神的に疲労し、精神的に不安定になり、うつ病や不安障害を発症するケースが増えています。
生産性の低下:受け取った従業員は、モチベーションが低下し、パフォーマンスが低下します。
離職率の上昇:定着が放置されると、従業員の離職が増加し、人材確保が認められます。
企業の評判悪化:優勢が社会的に明るいと、企業のイメージダウンや採用難につながる可能性はあります。


2. 組織内コミュニケーション

龍谷大学心理学部の水口政人(みなくち・まさと)教授が、心理学の観点から考察した
『上司・部下の意識の違い』その要因、解決策について書いた内容をご紹介します。

仕事に対する上司・部下のスタンスの違い

 

    











※パワハラと指導の違いは曖昧!?/龍谷大学心理学部より引用

上司の87.4%、部下の75.4%が、主体的に取り組むべきと回答。
その差は上司が12ポイント高く、部下に対する要求の高さがうかがえる。

※パワハラと指導の違いは曖昧!?/龍谷大学心理学部より引用

上司は66.6%が「仕事は見て盗むもの」と回答し、部下の55.6%よりも11ポイント高い意識がみられた。
コロナ禍でリアルの機会が減少する中、これからのOJTの在り方について検討の必要性を感じる結果に。

水口教授は、「上司は、期待値に対して部下の行動が伴わない際にイライラし、その打開策を
『厳しい指導』に向けてしまっている状態がある。何故部下は、期待する行動をとらないのか?その根本を紐解けば、
パワハラを未然に防ぐことができる」と考察しています

部下が求める上司、求めない上司ランキング:「自分のことを認め、褒めてくれる」上司を求め、
「人の意見を聞かず、自分の意見を押し通す」上司を好まない。

部下500人を対象に、上司に「求めるタイプ」「求めないタイプ」のアンケート調査を実施。

※パワハラと指導の違いは曖昧!?/龍谷大学心理学部より引用


◇ 部下が上司に求めるタイプ
ランキング上位に「仕事ができて、頼もしい」「冷静で筋の通っている判断をする」「責任感がある」
「決断力がある」といった昔から変わらない強いリーダーシップを持つ上司像がみられた。
「上司かくあるべき」という昔から変わらない上司像がまだまだ部下の意識に根強いなかで、
「自分のことを認め、褒めてくれる」といった点に、良好な関係構築への可能性がみられた。

◇ 部下が上司に求めないタイプ
ランキング 1位は「人の意見を聞かず、自分の意見を押し通す」となり、不健全なコミュニケーションに対して、
部下の否定的な意識がみられた。

心理学部の水口教授は「部下を認める、話を聞くなど、まずは関心を示すことが求められている。
尊敬できる上司像は昔から変わらない部分はあるが、“上から目線”に感じられることは好まれない」と
話しています。

部下が求める「褒め言葉」ランキング!その理由は?…「感謝」「関心」「存在意義」を示すことが重要。

※パワハラと指導の違いは曖昧!?/龍谷大学心理学部より引用

「上司からあなたが言われたい褒め言葉は?」との問いには、1位「信頼して任せられるよ」、2位「○○さんがいてくれてよかった」、
3位「一緒に仕事ができてうれしい」という結果に。

心理学部の水口教授は、「上位3位くらいまで(と5位)の言葉には、部下への “感謝” “関心” “存在意義” を感じられる言葉がみられ、
それ以下はともすれば “上から目線” に感じられる言葉が並んでいるのが特徴的」とし、
「ただし、言葉だけに固執するのではなく、その時にあった言葉のバリエーションや、感情の表現も含めて、上司には “褒める” ことの
本質を知ることが求められている」とアドバイスしています。

【褒める技術で、部下の「行動」を促す】

部下の主体性やモチベーションをコントロールすることは難しいですが、
部下の「行動」に影響を与えることは、上司の対応によって可能になります。

そのヒントは、アンケート調査の「褒め言葉」の中にあります。
部下が生まれ育った時代は「食べるのに困らない」「若年労働力の売り手市場」であり、
マズローの欲求5段階説※で言うところの生理的欲求、安全欲求が満たされ、
社会的欲求(人とつながっていたい)、承認欲求が高い状態にあると言えます。
ですので、部下は自分の社会的欲求、承認欲求が満たされる上司の言動を好み、そうでないものを嫌います。

部下が好ましい行動をとった際には、上司は部下の欲求を満足させるような、
部下への「感謝」「関心」「存在意義」を示すような声がけ(褒め言葉)ができるとよいでしょう。
ただし、アンケートにあるような部下が好みそうな言葉を連発して、部下に気に入られようとすることは本質ではありません。
組織を良好に保つために、部下に関心を持ち、部下に合わせた「感謝」を示すことで部下の行動を促し、
組織のパフォーマンスを高めていくことが重要です。

※ 心理学者アブラハム・マズローが、人間の欲求を5段階に理論化したもの。
 「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」という5段階の「欲求」を、順に満たそうとする心理的行動。

記事には「誉め言葉ランキングの理由」や、上司が考察すべき「部下の理由なき反抗」について解説が書かれています。
  ↓  ↓
パワハラと指導の違いは曖昧!? / 龍谷大学心理学部 水口 政人教授
https://cdn.kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M105191/202204210254/_prw_PR1fl_947mufv9.pdf

3. 書籍の紹介

元ラグビー高校日本代表監督の松井英幸氏をご存知でしょうか?
パワハラ問題で2015年に流経大柏高校ラグビー部の監督を辞任されました。
それから9年経った2024年6月、「俺みたいになるな!」との想いを込めて著書を出版されました。

パワハラで人生をしくじった元名監督に学ぶ「変わる勇気」

本書の一部を引用してご紹介します。


現役時代と指導者時代を合わせて30年以上にわたり駆け抜けてきたラグビー人生だった。
ところがパワハラ問題をきっかけに、人生の歯車が大きく狂い始めることになった。

2014年12月26日のことだった。私はその日の練習で、気の抜けたプレーをした3年生の選手を、全員の前で怒鳴りつけ、
彼の胸を小突いた。彼にケガはなかった。チームの中心選手として期待していたから、つい手が出てしまったのだ。

それから解任となり、テレビや新聞など大手のマスコミで全国にニュースが流され、Yahoo!ニュースでもトップニュースになるような
大事件になった。教員の地位までも失い、SNSでは私を批判、中傷する投稿があふれるようになっていた。

夜に人目を盗んで荷物をまとめて高校の教員室を出て、大学に引っ越しをすませた。
大学では一室をいただいたが、2年間仕事がなかった。私に「とにかく静かにしていてほしい」ということだったのだろう。

ただ、当時の私にしてみれば、怒りしかなかった。
この私も及ばずながら、付属高校、大学本体の進学率や競争力の向上に役立てればと考え、全力で頑張ってきたという自負がある。
私がどれだけの思いで、この流経大柏高校ラグビー部を立ち上げ、全国に名だたる強豪チームに育て上げてきたかを理解してほしかった。

それなのになぜ、たった 1回の失敗でこんな目に遭わなければならないのかー。
すべてが怒り。周囲すべてが敵だった。

こうしてマスコミに叩かれ、十字架を背負わされた松井氏がどのように立ち直ったのでしょうか。
松井氏はパワハラを「ボタンのかけ違い」と表現し、さらにそれは「氷山の一角だ」と語っています。

目次は以下のように進みます。

・相手の心が傷つく指導でも、勝てばそれでいいのだろうか?
・私はなぜ「しくじった」のだろうか・「自分の正しさ」を相手に押しつけていた
・「選手のために」という思いが空回りしていた
・「俺みたいになるな!」私の失敗を指導に活かしてほしい
・自分が相手を変えるのではない、相手が自ら気づいて変わるのだ


本書には非言語のコミュニケーションや、傾聴の方法、内発動機付けの方法、さまざまなワークシートなど掲載されていました。
こちらもご覧になってみてはいかがでしょうか。
  ↓  ↓
パワハラで人生をしくじった元名監督に学ぶ「変わる勇気」 /アチーブメント出版株式会社
https://x.gd/zgTIa







執筆:瀬野 容子(せの ようこ)
   一般社団法人日本ナースオーブ 代表

<他、参考ウェブサイト>
職場におけるパワーハラスメントについて/厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html

明るい職場応援団/厚生労働省
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/

パワハラとは?定義と職場でありがちな6類型/Lightworks BLOG
https://research.lightworks.co.jp/power-harassment-outline