保健師のお役立ち情報

仕事と病気治療の両立支援の輪を

note
『健康経営』が着目されて数年、従業員への「仕事と病気治療の両立支援」を行うための取り組みに着目し、支援制度を導入する企業も多くなってきたことでしょう。
しかし、実施している企業は大企業が多く、企業規模が小さくなればなるほど、その実施率は下がっていき、中小企業における取り組みは遅れています。
「仕事と病気の両立支援」といっても、なにから始めたらいいのか悩まれているご担当者様もいらっしゃるでしょう。

休職者の疾病で最も多いのは「メンタルヘルス」


「治療と職業生活の両立等支援対策事業」(平成25年度厚生労働省委託事業)における企業を対象として実施されたアンケート調査によると、疾病を理由として1ヶ月以上連続して休職している従業員がいる企業の割合

メンタルヘルス 38%
② がん 21%
③ 脳血管疾患 12%

でした。
また、労働安全衛生法に基づく定期健康診断等における有所見率は平成29年で54.1%にも上っており、毎年増加している傾向が今後も続くと見られています。
今、目の前に休職し両立支援を行う必要のある従業員がいなくても、将来的にいずれ支援が必要になってくる可能性は高く、将来を見越した支援策を検討する必要があります。

なぜ?仕事と病気の両立支援が必要か?


そもそもなぜ従業員が私傷病で休むことに対して会社が支援しなければいけないのか疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。

まず、法律上の理由として挙げるとするならば、企業には労働安全衛生法において、従業員の健康確保対策を実施するように定められています。具体的には健康診断を行い、医師の意見を勘案し、なにか所見や就業上の措置が必要になった場合は実施しなければなりません。従業員が仕事を行うことで、疾病を発症したり、疾病が悪化することを防ぐための措置が求められているのです。

そして、これらの義務のためだけでなく、仕事と病気の両立支援を行うことは、将来起こりうる、様々なライフイベントやライフスタイルの変化に応じて、長く働き続けられる環境づくりを行うことにもつながっていきます。
それが優秀な人材の確保や流出を防ぎ、従業員へ安心感を与え、それが仕事へのモチベーション向上につながり、やがて健康経営へと直結していくのです。

仕事と病気治療の両立支援はなにからスタートできる?


両立支援が企業の『経営戦略』にとっても重要であることはわかりました。
それでは、仕事と病気の両立支援はどんなことから始めたらいいのでしょう。

厚生労働省より『事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン』が出ており、どんなことから取り組んでいけばいいのか細かくまとめられています。

ポイントをいくつかお伝えしますと、

① 両立支援に取り組むにあたっての事業者としての方針を職場で周知を行います。

事業者による基本方針の表明等を行い、会社として両立支援を行う必要性や意義を従業員と共有し、皆で取り組みやすく、相談しやすい環境づくりを行います。研修等を行い、疾病に対する誤解をなくしたり、理解を深めることも効果的かもしれません。

② 相談窓口等を明確化します。

通院が必要になったとき等、従業員が気軽に相談できるように相談窓口を決めておき、日頃から周知を行うことが重要です。もし、相談された際の個人情報の取り扱いについても、取り扱う者の範囲や漏洩防止も含めた管理体制を事前に検討しておく必要があります。

③ 産業保健師や産業医、医療機関関係者との連携を図っておきます。

本人の同意を元に復職に際して、主治医からの意見を求めたり、産業保健師や産業医との密な連携が必要になります。

④ 両立支援に関する制度を定め、職場に周知を行います。

次のような制度の導入が検討できると良いでしょう。
・時間単位で取得できる有給休暇制度(労使協定を結ぶことで、1年で5日分を上限として付与可能です。)
・傷病休暇(入院や通院のために利用できる休暇です。無給や有休かは事業者が決めます。)
・時差出勤制度(始業及び終業の時刻を前後することで心身に負担のかかる通勤時間帯を避けて出社することができます。)
・テレワーク(自宅等で勤務することで通勤による身体への負担を軽減することができます。)
・通勤訓練(自宅から職場への任意の通勤訓練を行います。)

その他、日頃から高額療養費制度や限度額認定証制度、傷病手当金制度等、もしものために治療と仕事の両立支援に関する支援制度を社内で周知を行う等、支援を必要とする従業員が申出しやすい雰囲気をつくることが重要です。
また、重大な疾患でなくても、気軽に相談できたり、必要に応じて休暇を取ることができるように、部署等グループ内で業務の進捗状況等を日常的に共有しておく等の取り組みも必要です。

形だけの両立支援制度をつくるだけでなく、「うちの職場、従業員であればどんな支援が必要か?」と具体的にシュミレーションしてみることも良いのかもしれません。


(参考資料)
・厚生労働省 事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000115267.html
・厚生労働省 定期健康診断結果調
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003328580