産業保健師の現場にも使えるナッジ理論
突然ですが、今、あなたの目の前に何としても
健診を受診してもらいたい人が
いたとしましょう。あなたは健診の案内をします。
次の2つのうち、健診に出かけてくれる可能性の高い案内文はどちらでしょうか。
① 健診を受けましょう。 ② 健診を受診するのはいつにしますか? 【1】●月△日 【2】〇月□日 |
断然、後者の②ですよね。
健診を受けることは、自身の健康状態を把握するためにも大切なことはどなたもわかっているでしょう。
しかし、毎日の生活の中ではやりたいことが溢れていて、面倒だと感じてしまったり、
あとで考えようと思ったことは忘れがちになり、避けてしまいがちです。
そんな場合に意識して使っていきたいのが
「ナッジ理論」なんです。
上記②の案内文はナッジ理論を踏まえ作成したものです。
ナッジ理論とは?
「ナッジ理論」の
「ナッジ(nudge)」とは、英語で
「相手の注意を引くために、肘でそっと突く」ことを意味します。
文章の文面や表示方法等を工夫することで、
その人の心理に働きかけ、行動を行動科学的に変えていくことが「ナッジ理論」です。
2000年代に、この理論を提唱した米シカゴ大学のリチャード・セイラー教授が2017年にノーベル経済学賞を受賞したことで話題になりました。
ここで、すこし難しくなりそうなので産業保健の場とは少し離れたナッジ理論を使った方法例をお伝えしましょう。
・コンビニやスーパーのレジ前でお客さんが思い思いに並んでいて大混雑している。 →お客さんが並ぶ位置を床に足跡で掲示したところ、皆が案内の方向に並んでくれた。
・ある自治体で路上の放置自転車が問題とされていた。 →路面に子どもたちが描いた絵をプリントしたところ、放置自転車がなくなった。
・レストランでメニューがたくさんあり、お客さんが選ぶのに苦労している。 →「本日のおすすめメニュー!」の表示を意図的に一部のメニューにつけたところ、選びやすくなった。
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このように、身近な場で知らないうちにナッジ理論が用いられていることがたくさんあります。
「健診を受けましょう」と繰り返し伝えるだけでは、なかなか人の行動を変えることは難しく、
申し込みが面倒だから後でいいやと思われてしまっては終わりです。
それならば、
健診を受けないという選択肢をなくし、
いつ受けるか決めてもらえるような案内をすればいいのです。
「いつ受けるか?」という日程を決めていただいた後には
「どこ(健診実施先)で受けていただくか」という場所を決める、そのステップも大事ですよね。
深刻な社会保障費の増大を課題とする地方自治体の中には、住民の健診受診勧奨に力を入れて行っている自治体もあります。
受診率向上のためにチェックしたい、詳しいナッジ理論解説やポイントについては
厚生労働省の
「受診率向上施策ハンドブック 明日から使えるナッジ理論」をご覧ください。
ナッジ理論を意識して日々の業務にうまく使っていきたいですね。